陽キャにはわからないかもしれないが、陰キャの青春にはゲームの影響が色濃く表れる。ドラクエと出会う中学一年生。13歳。僕がドラクエと初めて出会ったのはその冬だ。サンタクロースからもらった。よその家は知らないが僕の家には中学生でもサンタクロースは

陽キャにはわからないかもしれないが、陰キャの青春にはゲームの影響が色濃く表れる。

中学一年生。13歳。僕がドラクエと初めて出会ったのはその冬だ。サンタクロースからもらった。よその家は知らないが僕の家には中学生でもサンタクロースは来てくれた。きっといい子だったからだろう。西洋風の人が演じるキャラクターのCMに惹かれたのか、ドラクエというゲームに魅力を感じたのか、なぜ欲しかったのかは今では覚えていない。それでも手元に来たときはとても嬉しかった。周りの友達は部活の道具や音楽プレイヤーなどをもらっている中、ゲームをもらった自分になんだかダサさを感じたりもしたけれど、少し経てばそんな気持ちも消え、のめり込んでプレイした。

僕にとってドラクエは初めて触れる正統なRPGだった。オムニバス形式のドラクエ4を正統と言ってよいのかは知らないが、初めての魔王討伐だったのは間違いない。当然、初めてのぱふぱふも中学1年生という普通の人に比べ遅めの経験だった。ばふばふ以上のことは何も起こらないのに、何回もぱふぱふしてもらったのは多感な時期ゆえだろう。

僕がドラクエをプレイする中で楽しかったのは、ゲームそのものもそうだが、ドラクエについて人と話すことも大きな割合を占めていた。趣味は人と共有することで楽しさが倍増する。僕もその例に漏れない。当時の僕にはドラクエ4の話をできる人が二人いた。一人は担任の教師。もう一人は部活の友達。この二人とドラクエ4の話をするために、プレイしていた側面もあったと思う。それくらいこの繋がりが嬉しかったのだ。

もちろん小学生のころだって友達とゲームやカードの話をしたことはある。でも、中学生と小学生の区分というのは意外と大きな違いだ。小学生のころと比べ、担任と生徒の距離感はどうしても遠くなる。生徒同士であっても成長速度には大きな差が生まれる。内面的にも外面的にもだ。これらを埋めてくれたのがドラクエ4だった。

中学一年生の時の担任は30歳手前という今思えば若手の先生だった。でも、実際の彼に若手らしさを感じたことはない。元々地元で有名なヤンキー校から赴任してきたということもあってか、彼には若さを感じさせない威厳があった。それゆえ2年次以降はヤンチャな生徒は彼のクラスに配属される傾向にあったし、ヤンチャな生徒の指導に駆り出される彼の姿は印象に残っている。僕自身もお調子者な生徒だったこともあってよく怒られていた。だからこそ僕は明確に彼を目上の人と捉えていた。それは、小学生時代の甘えのあるものとは一線を画す正しい教師と生徒の関係だったと言えよう。

教師の彼にも趣味はある。「趣味はゲームで、とくに好きなのはドラクエ。」自己紹介の時に言っていたこのセリフを僕は覚えていた。自分ながらによくそんな些細なことを覚えていたものだ。高圧的な態度の人とゲーム、あるいは教師とゲームという取り合わせが意外だったのかもしれない。だが、覚えていた理由などどうでもいい。ドラクエ4が楽しくて誰かと話がしたかった僕にとって、彼は教師ではなくもはや獲物だった。

「先生ドラクエ買いました？」意を決して尋ねた僕に、担任は「おお、買った。」と意外そうに答えた。「僕も買ったんですけど、面白くてハマっちゃって…」共通の話題はすでに決まっている。最初の一歩さえ踏み出せば、そこからは勝手に会話は紡がれる。それからはちょいちょい担任とドラクエ4の話に花を咲かせた。プレイ進捗やパーティの話など。その時間だけは彼は教師ではなかったし、僕は生徒ではなかった。大人と対等に話せる。それは背伸びしたい年頃だった当時の僕には一種の快楽だったのだろう。ただの生徒のままな同級生に対する優越感に僕は痺れたのだ。なんとも矮小な。

これが担任とのドラクエの思い出だ。

中学生ともなると、生徒たちの間にも立場の違い、いわゆるカーストが目立つようになる。それは当然僕の中学校でも見られ、僕もそのくびきからは逃れることはできない。学校全体での僕のカーストはおそらく中くらいだったと思う。カーストの上の人にも話しかけられるし、下の人にも話しかけられる。僕はその立場を気に入っていた。

だが、コミュニティが変わればカーストも変わる。僕の部活内でのカーストは底辺と言って差し支えなかった。もちろん学校全体のカーストと比べれば、そのレイヤーは薄い。カーストが上の者とも気軽に話せるし、軽口も叩ける。それでもカーストが上の者たちが揃った時の流れには逆らうことができない。長い物には巻かれろ。上の者たちが右と言えば下の者たちは右という他ないのだ。

彼は部活内カースト上位だった。寡黙なのに、いや寡黙ゆえか。中学生とは思えない落ち着きを持った彼の発言には力があった。率先して部活の方向を決めるような感じではない。だが、自分の意志で流れを変えるのは容易な立場。

そんな彼に僕は密かに憧れていた。彼と話せるのが嬉しかったし、もっと仲良くなりたかった。こういうとなんだか恋のように聞こえるが、もちろん恋愛感情ではない。彼のような男になりたかったのだ。残念ながらなれなかったが。

幸運なことに僕と彼は家の方向が同じだった。帰り道は同じ。そして、彼もドラクエ4を買っていた。他の部活メンバーは買っていない。僕と彼だけがドラクエ4をプレイしていた。チャンス到来。ドラクエ4にハマってからは部活メンバーと帰る中、二人だけでドラクエ4の話をするようになった。ドラクエ4の話をしている間は他の誰にも邪魔されずに彼と話せる。僕にとって彼はドラクエ4の話をできる貴重な友達だし、彼にとっても僕はドラクエ4の話をできる貴重な友達なのだ。ドラクエ4を介す時だけは僕は彼の特別な友達になれた。部活終わりの帰り道がとても大切な時間になった。

しかし、ドラクエ4にはエンディングがある。ドラクエ4の話をするために、彼に負けないように、僕はたくさんプレイした。その代償にクリアは早くなる。それは僕と切磋琢磨していた彼も同様。皮肉なことに、彼との会話を楽しむためにプレイすればするほど終わりが近づくのだ。この時間は1か月も続かなかったと思う。大切な時間は長く続かない。

ドラクエ4をクリアしたら僕たちの関係は元に戻った。彼にとって僕は特別ではなくなった。別に仲違いしたわけではなかったし、普通に会話はできた。それでも二人だけの大切な時間はもうない。僕はそれに寂しさを感じるとともに、思い出として胸にしまい込んだ。

現在彼がどうしているのかは知らない。きっと僕のことを思い出すことはないだろう。でも、僕にとっては大事な思い出だ。

ゲームをしているとなんのためにゲームをしているのかわからなくなることがある。ゲームがうまくなって何になるのか。この時間を他のことに使っていれば。と、虚無感は不意に襲ってくる。

でもどうだろう。こんなふうにゲームには立場を超えた関係を作る力があるのだ。ゲームに紐づいて代えがたい思い出も生まれる。それはとても美しいことではないか。

尤もこれはゲームだけでなく趣味全般に言えることだ。より有意義な趣味で関係を作れるのがベストかもしれない。しかし、人はゲームの引力に囚われてしまう。快楽に溺れてしまう。これは仕方がない。だからこそゲームにうしろめたさを感じた時にそれを和らげる一助にこの記事がなってくれれば幸いだ。

ドラクエ4の思い出