SFC時代末期、スクウェア（当時）から打ち出された名作にして怪作

バハムートラグーンは、1996年にスクウェア（当時）がスーパーファミコン用ソフトとして発売したゲームソフト。

ジャンルとしてはシミュレーションRPG。プレイヤーは複数のユニットを操作しつつ、自動で行動するドラゴンユニットと協力して敵ユニットを撃破することでストーリーを進めていく。

しかしこのゲームの面白さと個性は、むしろシミュレーション以外の部分にあると思う。もはや個性を通り越してアクとも言えてしまいそうな独特な強烈さを、このゲームは持っている。

本作は特にリメイクされることもなく、移植もWiiコンソールを最後としている。それにもかかわらず、今なお「好きなゲームは？」と聞かれたらこのゲームを挙げずにはいられないのは、この強烈さに魅了されたからだろう。

ドラゴン、獣でも神でも怪物でもなく

このゲームでは、「ドラゴン」という存在がシステム上もストーリー上も強く関わる。

プレイヤーは様々なドラゴンたちと協力し、時に戦い、時に対立し、時に利用し合いながら物語を歩んでいく。

「ドラゴン」は様々なファンタジーで様々な設定で登場するが、本作での「ドラゴン」はその立ち居振る舞いがいささか独特だと思う。どこか人間臭い。

甘いもの食べれば喜ぶし、くれた人間には懐いて戦闘中でもべったり離れなくなる。一方で苦いものや美味しくないものを与えられると近寄らなくなるし言うことも聞かなくなる。

本編中、一部特殊なドラゴンはモノローグがあるが、強大な力を持ちながら人間のように怒り、戸惑い、悲しんでいる様子がわかったりもする。

その強大さを持って傲慢なしかし安っぽい悪行を働いたをしたかと思えば、その結果生じた事態に困惑し後悔したりもする。

理知的なものもいれば大人しいもの、喧嘩っ早いもの、ナメてかかってくるものすらいる。

フィクションにおいて、「ドラゴン」は様々な描かれ方をしてきた。時に意思疎通不可能で互いに倒すか倒されるしかない獣のように、時に力も精神も人間を超越する神のように、時に圧倒的な力を持ちつつ最後は人間に打倒されるよう位置づけられた怪物のように。

しかし本作のドラゴンどれにも当てはめがたい。彼/彼女らは、時に友人のように、時に子どものように、時に迷惑な乱暴者のように、時に他の狼藉に頭を悩ます保護者のように、多様ながらどうにも人間臭い一面を見せてくれる。

美しく恐ろしい舞台「オレルス」

本作の舞台「オレルス」は、上下左右果てしなく続く大空とそこに大小さまざまな島が浮かぶという実に特徴的な世界になっている。

無限に思える天空とそこを飛び交うドラゴン、というだけでも実に画になる。戦闘シーンでも広い空を背景するシーンはよく登場するし、本編ドラマにおいても「果てしない空」という要素は時に演出として、時に心情表現として、時に舞台装置として、様々に活用されている。

オープニングも「小島が点在する広大な空を、巨大なドラゴンが飛行している」シーンから始まる。本作において、「オレルス」並びに「空」は、様々な意味で非常に大きな役割を与えられている。

一方で、この「果てしない空」はどこか恐ろしいものでもある。

果たしてこの世界に「果て」はあるのか。どこまでもどこまでも空を進んでいったとき、そこにはなにかあるのか、それともなにもないのか。

地球であれば、単に一周するだけであり「果て」など存在しないのは周知の通り。しかしこの世界には空しか見えず、球体である保証などどこにもない。平面かもしれないし、（ドラゴンクエストなどのRPGのような）トーラス構造かもしれないし、あるいはもっと異なる形をしているかもしれない。

「果て」があったとして、空の「果て」とは、言い換えれば「空が終わる」とはどういうことなのだろうか。そこで何が起こるのか。

「果て」がなかったとして、ではこの空しか無い世界はいったいどのような全貌をしているのか。最初から空しか無かったのか、何かがあって空だけが残ったのか。

本編のオレルスは「そういう世界」として最初から当たり前に受け入れられている。つまり、この疑問には一切の回答が存在しない。プレイヤーにできるのは、悶々と考えることだけだ。

また、この世界にはおよそ「地上」なるものが登場しない。あるのは空に浮かぶ島々だけだ。オレルスの人々にとって、「地上」とは空の中（に浮かぶ島）にあるものであって、空の下にあるものではないのだ。

この世界で島から転がり落ちたものはどうなるのか。この疑問は本編中でも出てくるが、答えは与えてもらえない。永遠に落ち続けるのか、それともいつか下方向の「果て」にたどり着くのか。下の「果て」があったとして、果たしてそれは「地上」なのだろうか？

永遠の落下は間違いなく恐怖だが、一方で、得体のしれない「何か」に到達するかもしれないというのも実に不気味な話だ。

美しく神秘的な世界オレルス、

作劇上も演出上も様々に活躍しプレイヤーを引き込むオレルス、

考え出すと謎が多く「空」故の恐怖を孕むオレルス

この独特な舞台設定もまた、本作の印象を強くする一役を担っていると思う。

最も強烈に本作の印象を強めているのは、なんといっても登場人物たちであると思う。

本作はシミュレーションRPGという性質上、味方も敵も実に多くの人物が登場する。しかしながら数合わせや水増し的なキャラクターはまるで存在せず、それぞれがそれぞれに強烈な個性、ややもするとアクを抱えている。なんならユニットとしての名称だけで個体名を持たない敵キャラですら、一部はやたらと濃いキャラをしている（「特技はやり投げです！」と自己紹介してきたり、開幕「大根が切りたい！！」とわめき出すなど、他のゲームではそうそう見ないだろう）。

そうした個性的な振る舞いには、ストーリー上の深い背景に由来しているものだったり、ストーリーには関係しないが物語に深みを与えてくれるものもある。一方でストーリーに関係も無ければ物語に絡むことも無く、ただただひたすら強烈なだけのものもある。

そうした振る舞いによって人間関係が進んだり、複雑になって絡み合ったり、崩壊したり（！）、薬中毒になったり（！！）、時には何もかも吹き飛ばしてしまおうとしたり（！！！）、色々な意味で目が離せないものもある。

かと思えば、全て終わった後でも「あれって結局なんだったんだ」とよくわからないまま終わるものもある。思わせぶりなものもあったり、思わせぶりなのか何も考えてないのかもよくわからないものもある。

本作バハムートラグーンの「濃さ」は、こうしたキャラクターたちの強烈な個性によって支えられているところが大きいと思う。プレイ環境を用意するのは大変だが、ぜひプレイして彼/彼女らに振り回されてみてほしい。

（ちなみに私はディアナとアナスタシアがお気に入りです）

シミュレーションRPGとしてはそれほど奇をてらった作りではなく、スムーズに遊べる。

それでいて舞台設定や「ドラゴン」の扱いには特徴的で独創的な要素が多い。

そしてなにより、時にプレイヤーを置き去りにすらする強烈な個性を持ったキャラクターたち。

本作「バハムートラグーン」は、ファイナルファンタジーのような世界的名作にこそならなかったが、それでも私のような古いファンたちの心を掴んで未だにはなさない良作にして怪作であると思う。

ここまで「バハムートラグーン」というゲームがいかにして私の心に突き刺さってきたのかを書きなぐってきましたが、これを通じて本作に興味を持っていただけたら嬉しく思います。

Wii・Wii U のバーチャルコンソールも終了してしまった今、プレイできる環境はSFC実機しかないというかなり厳しい状況ではありますが、機会と機械が揃ったらぜひプレイしてみていただきたく思います。

https://mygame8.jp/games/campaign-all/fac6efb0f8539b3e6a6b

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